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東京高等裁判所 平成10年(う)624号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人瓜生貞雄作成の控訴趣意書及び同補充書に記載されたとおりであるから、これを引用するが、要するに、被告人を懲役一〇月に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。

そこで検討するに、被告人は、平成七年二月窃盗罪等により懲役二年(三年間保護観察付き執行猶予、その後執行猶予取消し)に、同年六月窃盗罪により懲役七月にそれぞれ処せられてその各刑の執行を受けたのに、平成九年一〇月一四日に仮出獄を許されて出所した後わずか二か月余りで、またもや数日前まで勤務していた新聞販売店から現金約一万三五〇〇円等在中の手提げ金庫一個を窃取したのであるから、その規範意識の欠如が著しいというべきである。

そうすると、捜査段階から一貫して事実を素直に認めている上、原判決後両親から送金された金員中一万三五〇〇円を被害者に弁償して真剣な反省の情を示していること、その他被告人の年齢など被告人のために酌むべき事情を十分考慮してみても、原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

なお、原審の判決書には作成日付として「平成九年三月一七日」と記載されているが、記録によれば、本件は平成一〇年二月四日に公訴の提起があり、同年三月一〇日に第一回公判期日が開かれて即日結審し、同年三月一七日に原審の判決宣告があったことが明らかであるから、右の「平成九年三月一七日」は「平成一〇年三月一七日」の明らかな誤記であって、原判決を破棄すべき違法には当たらないと解するのが相当である。すなわち、判決書を含めて公務員が作るべき書類に年月日を記載することとしているのは(刑訴規則五八条一項)、書類の特定性に資するためであると考えられるから、判決書に年月日の記載が欠如し又はその記載に誤記があっても、それだけでは判決書の無効を導くものではなく、その瑕疵があることにより、判決書の特定性を欠く場合又は他に実質的な違法がある疑いを生じさせるような場合(例えば弁論再開後の審理結果などを判断の基礎から除外して判決書が作成されて判決の宣告が行われたなどの実質的な疑いが生じる場合)に初めてその無効を導くものというべきであり、本件はこのような場合には当たらない形式的な違法にとどまると解されるからである(最高裁昭和四一年二月二四日第一小法廷判決・刑集二〇巻二号四九頁、同昭和四五年六月二三日第三小法廷決定・裁判集一七六号六五五頁参照)。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、刑法二一条を適用して当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の刑に算入し、当審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香城敏麿 裁判官 平谷正弘 裁判官 杉山愼治)

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